コロナとマスコミ

マスコミが世論を先導する社会でいいのだろうか

安倍氏暗殺事件をめぐる報道がおかしい

安倍氏暗殺事件のテレビでの扱い方や知識人達の見解が空恐ろしい。一昨日もNHK江川紹子氏が、この事件に「政治と統一教会の繋がりを明らかにした」功績があるかのように伝えていた。

私はこの事件をそういう文脈で語ってはいけないと思う。少なくとも江川氏のようなリベラル知識人はそうすべきでない。

なぜなら、この事件は見方を変えれば「ネットの誤情報に踊らされた者による見当違いの殺人事件」になるからである。そしてそれは知識人達がいつも警鐘を鳴らしていた忌むべき事態なのだ。


安倍氏統一教会に一体どんな便宜を図ったのだろう。

事件が起きて以来、連日大騒ぎでジャーナリストも血眼になって探し回ったが、出てきたのはビデオメッセージと安倍氏祖父の握手写真、関連団体の会合に出席した議員(与野党)の存在、選挙運動への協力要請といった所である。

安倍氏統一教会から何かを受け取り見返りを提供した事実は見つからず、騒いだ割に出てきた事実は小さい。いや、あれがある、これがある。そういう細かい指摘は色々あろうが、実のところ今回私が問題視している件に事実関係はさほど重要ではない。

事実の有無以前の問題なのだ。

報道される山上容疑者の供述内容を聞くと、安倍氏統一教会の繋がりとして挙げられているのがビデオメッセージと安倍氏祖父の時代の話だけなのである。

『捜査関係者によると、さらに山上容疑者は「安倍元首相のメッセージ動画を見て団体とつながりがあると思った」と話していることが新たに分かった。』文春引用

『山上容疑者は「岸信介元首相が団体に関係があると思い、孫の安倍元首相も関係があると思った」と供述している』日テレニュース引用

これだけだ。他にに何かまだ知られていない情報を持っているのか思っていたが、何も出てこない。そもそも供述内容が全然報道されていないのである。

これで「安倍さんにも原因あるから仕方ないよね~」という世論になってしまったり、ジャーナリストが「この事件で自民党統一教会の癒着が明らかになった」と言ってしまうのが理解できない。その論理が成立するなら拉致事件との関連が指摘されている朝鮮総連に挨拶に行った政治家が拉致被害者家族に襲撃されても仕方ない」し、

共産党と総連の癒着が明らかになった」になってしまうではないか。それは違うだろう?

そういう血で血を洗うような世界もあるのかもしれないが、我々が生きる社会、そしてリベラル言論人が目指す社会がそれじゃないのは明らかだ。


安倍氏統一教会の関連を指摘する投稿は5chなどのネットの底ではよく見かけた。ネット以外では見た事も聞いた事もない。5chには壺がどうとかの内容や安倍氏のAAがよくコピペされていた。山上容疑者の供述内容には、このネットでコピペされている程度の話しか出てこないのである。安倍氏と統一の繋がりを示す具体的な根拠がない。(挨拶動画の件でどうこう言うのがおかしいのは総連と志位氏の件を考えてみれば明らかだ。無論、挨拶に行った志位氏を同様に批判するならば矛盾しない。)

しかも、実際に安倍氏統一教会と関係があったのかと言うと、とても関係があるとは言えない程度の薄い繋がりしか出てこない。大手新聞社の一流記者達が探し回ってもあの程度しか見つからないのだ。なお繰り返しになるが、事実の有無は重要ではない。

ネットのコピペ程度の情報しか持たない山上容疑者が安倍氏統一教会に関係があると判断して氏を殺害した。
そしてこの程度の関連性しか把握していなかった山上容疑者を、ジャーナリズムが「安倍氏と統一の関係を明らかにした悲劇の主人公」扱いした事が問題なのである。

次の文章は「濫用される陰謀論」で濫用事例として取り上げた秦正樹氏と旗智広太氏の記事からの引用である。
『大阪では今年3〜5月、やはりネット上の情報にのめり込んだ29歳の男が、「日本を滅亡に追い込む組織」などとして立憲民主党辻元清美議員事務所や、在日コリアンらが通うコリア国際学園、そして創価学会支部を立て続けに襲った。』

秦氏と旗智氏はこれをネットのデマ、陰謀論を信じ込んだ者の凶行だと断罪している。その通りである。普通は辻本氏や在日コリアン創価学会が日本滅亡を望んでいるなどと思わないし、仮に辻本氏に反社会的な人物との繋がりがあったとしても、それだけで責め立てたりはしない。ましてや襲撃など言語道断である。

なぜ唐突にこの文章を持ってきたのかと言うと、ここに書かれている「ネット上の情報にのめり込んだ29歳の男」の事件が山上容疑者のそれと同じ構造を持っているからである。「29歳」を「41歳」に置き換え、「日本を滅亡に追い込む組織」を「統一教会」に、「辻本清美議員」を「安倍晋三議員」に置き換えてみてほしい。

辻本氏や在日コリアン創価学会が「日本を滅亡に追い込む組織」に属している証拠はない。しかし辻本氏に反社会的人物との「接点」が指摘された事はあった。

全日本建設運輸連帯労働組合 - Wikipedia

また、朝鮮学校校長が拉致事件に関与していると疑われた事もあったが、

これらの情報から彼らを「日本滅亡に追い込む組織」と断ずる事ができるはずもない。根拠が薄すぎる。

山上容疑者による安倍氏暗殺事件も同じだ。「祖父の代から関係しているとネットに書いてあったし挨拶動画も見たから」などという薄弱な根拠で安部氏を統一の黒幕と認定していいわけがない。

これは見当違いの憎悪なのだ。※

納得できない人はここでもう一度「安倍氏」を「辻本氏」に置き換えて考えてみてほしい。仮に辻本氏に、逮捕歴のある人物との接点、献金を受けていた事実があったとしても、そこから氏を反社会的人物と認定するのは無理があり、襲撃にまで至るのは異常だ。同様に安倍氏統一教会の関連団体に挨拶動画を送ったからと言って、教会支援者と認定するのは無理があり襲撃するのも異常なのである。

事件の論理的な構造を見れば、山上容疑者の凶行は彼らが言う「陰謀論にはまった29歳ネット右翼」のそれと同じなのだ。

左派議員を襲撃した犯人は陰謀論にはまるネット右翼、右派議員を襲撃した犯人は悲劇の主人公、などというダブルスタンダードをジャーナリズムが許していいはずがない。赤旗など政党機関紙ならばそれで良いと思うが、社会の公器を続けるつもりなら許されない。善良な市民はまだ彼らを公平な存在と信じている。)

普段から「ネットは陰謀論の巣窟」などと宣って右翼批判している知識人の方々はこの事件を「ネット陰謀論にはまった孤独な中年男」の事件として非難しなければ筋が通らないのである。

そしてこの事件は統一教会の問題に光が当たった」とか「政治と宗教の問題を考える事ができた」に繋げてはならない。辻本氏の襲撃事件から「連帯ユニオンがどういう組織か知る事ができた」なんて言ったら………怒られるでしょ?

 

アベシネ系の人達が祝杯を挙げ山上容疑者を擁護するのは構わない。我を失って憎悪を発露させる者が言論界で立場を維持できるはずもなく、ただ消えていくだけだ。

だが、江川氏のようなリベラル派ジャーナリストがこの事件を統一教会問題として取り上げてしまうのは本当にやるせない。何が問題か分からずにやっているのなら迂闊だし、知ってやっているのなら悪質だ。

でも…統一教会はひどいことしたでしょう?それは勿論そうだ。もっと早く解決すべき問題だった。合同結婚式で騒いだ後になぜ空白の時間が生まれてしまったのか私には分からない。政治の圧力があって報道できなかったと言うなら、具体的に誰が圧力を掛けたのか明らかにして責任を追及すべきだ。報道規制されるほどの事態ならば記録が残っているはずだ。疑惑を匂わせるだけで終わらせてはモリカケ同様の無意味な政治不信を煽るだけである。はっきりさせなければいけない。もし圧力を掛けられた記録がないならば、メディアには追及を自発的にやめてしまった理由を明らかにしてもらいたい。

 

※山上容疑者が安倍氏暗殺の社会的影響力を利用する目的で事件を起こした可能性は勿論高いし本人も安倍氏は本来の標的ではないと供述しているはずだが、ジャーナリストはこの事実から目をそらし、事件を政治と統一教会の話に集約するばかりだから私もここでは無視している。「安倍氏を利用した」が前面に出ると政治と統一の癒着にフォーカスできなくなるから避けているのだろう。