コロナとマスコミ

マスコミが世論を先導する社会でいいのだろうか

ホワイトすぎて退職はフェイクニュースの疑い

 『最近、企業などに勤める若手社員が「仕事がゆるすぎる」「職場がホワイトすぎる」という理由で、退職するケースが増えているといいます。その背景を取材しました。(上記テレ朝ニュースの記事本文より引用)』

職場がホワイトすぎて退職する若者が急増?そんなバカな。

なぜ「職場がホワイトすぎて」退職する若者が急増するのだろうか。疑問に思ってデータを探してみても本文中にはない。ニュースの中に登場する情報源と思われる古屋星斗氏を検索してみると、このニュースの元となったと思われるビジネスインサイダージャパンの記事が見つかった。

この記事の中には複数の調査結果が載っている。本文で言及されている調査結果は次の通り。

  1. 過去(10年、20年前)の新入社員より今の新入社員は労働時間、残業時間が減少している。
  2. 過去に比べて叱られた経験のない新入社員が増えている。
  3. 過去に比べて「休みが取りやすく失敗が許され副業に肯定的な職場である」と回答する新入社員の割合が増えている。
  4. 過去に比べてストレスや不安を訴える新入社員の割合が増えている。
  5. 不安感の原因に「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」と回答した新入社員の割合が48.9%(この調査結果だけグラフなし比較なし)
  6. インターンや職場見学など入社前の社会活動経験のある新入社員の割合が増えている。
  7. 入社前の社会活動経験が多い若者ほど離職率が高い。

以上である。

どこにも「職場がゆるすぎて退職するケースが増えている」を示すデータがない。

一連のデータからこの結論を導くことも無理だと思う。

退職に関して示されているデータは7だけで、その内容は要するに他の企業、他の社会を知っている若者は自社との比較が可能で、転職の伝手もあり、より良い環境を選択しやすいという話だろう。そして6で示されているように色々な社会を知った選択肢の多い若者が増えたから若年離職者も増えたと。素直に解釈すればこうだろう。

「職場がゆるすぎて退職するケースが増えている」と主張するなら回答項目にこの理由を入れた離職理由を問うアンケート調査を離職者に行うべきだった。

古屋氏は職場環境が改善されているのに不安感が高まっているのは妙だ、と言って5の結果を本文中に提示している。ここから「ゆるい職場が原因の退職」論に持って行きたいようだが、5の調査結果が

この「不安感」を深堀りすると、興味深いことが分かる。直近の新入社員の48.9%が、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」と回答していたのだ。

しか書かれていないので、どんな質問だったのか、他にどんな回答が用意されていたのか、回答が単一選択だったのかも分からない。過去との比較もない。もしかしたら過去の新入社員でも同じような回答傾向になったかもしれない。48.9%です、とこれだけ示されてもそれが高いのか低いのか判断のしようがない。

 

どの道テレ朝ニュース本文の若手社員が「仕事がゆるすぎる」「職場がホワイトすぎる」という理由で、退職するケースが増えている』に根拠がない事に変わりはない。日本ファクトチェックセンターに調査してもらいたい。

 

なお古屋氏は見出しにも「ホワイトすぎて離職」とクエスチョンマークを付けているし、本文中でも「職場がホワイトすぎて退職する若者急増」といった断定はしていない。

しっかりと「ゆるい職場が若手の離職の一因になっている可能性がある」と断り書きをしている。

一因になっている可能性がある。一因であって主要因ではないし、一因にすらなってない可能性もある。そういうことだ。

だから古屋氏の記事はフェイクニュースではない。しかしこれがテレ朝ニュースに移植されると、若手社員が「仕事がゆるすぎる」「職場がホワイトすぎる」という理由で、退職するケースが増えている』になってしまい、本文中に根拠も示さないわけだから、これはもうフェイクニュースと言わざるを得なくなる。

別にテレ朝担当者に悪意があってやってるわけではなく、単純にこういう調査研究の扱い方を知らないだけだと思うが、フェイクニュース狩りに熱を上げるなら自分達のいい加減な情報の扱い方にも目を向けるべきだとは思う。