コロナとマスコミ

マスコミが世論を先導する社会でいいのだろうか

ワクチン投与群と偽薬群で死亡率が同じという記事

この記事について。

ワクチン接種者と偽薬接種者の死亡率が同じ ファイザー公表データの意味(NEWSポストセブン) - Yahoo!ニュース

この記事で言及されている元の論文は下記。こういう記事書く時は元の論文にアクセスできるようにしておくべきだ。

Six Month Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA COVID-19 Vaccine | medRxiv

https://www.medrxiv.org/content/medrxiv/early/2021/07/28/2021.07.28.21261159/DC1/embed/media-1.pdf?download=true

この論文のデータから読み取れるのはワクチンが意味ないとかワクチン打つと死亡率が上がる、ではなく「ワクチンは有効だけど、そもそも新型コロナで死んだ人が少なかったから死亡率の低減には寄与しなかった」ということだろう。

偽薬群はワクチン群より感染者数が8倍くらい多いからワクチンの効果は明らかである。死亡者数は何か言えるほどの数が出ていない。心筋梗塞での死亡がワクチン群に多いように見えるが、この数では誤差か否か判断できないだろう。

だからこの論文はファイザーのワクチンに不利な結果ではなく、ワクチンは普通によく効きましたという結果が載っているだけ。

ワクチン不信を煽る方向に重み付けされた記事で感心しない。

まぁ、血栓リスクのアストラゼネカワクチン怖い、とか、新技術ワクチンの未知の影響が怖い、という感覚は自然だとは思うので、コロナで死なない若年層がワクチンを接種する意味がどこまであるのか、的な議論はあってもよかった。偏った情報供給のせいでパニックに陥ってしまった日本では無理だっただろうけど。

東京の重症者増加が止まったら全国の数を取り上げ「過去最多です」

NHKのニュースで毎日重症者数を読み上げ「過去最多です」とやっているが、これまでは東京都の重症者数を扱っていたが、ここ数日は日本全体の合計重症者数を読み上げている。

不思議に思って調べてみると、東京の重症者数はここ数日増加しなくなっている。

「過去最多です」ができなくなったから東京をメインに扱うのはやめたということか。そしてそれができる全国の重症者数をメインに据えることにした。

疑うことなくニュースを見ている視聴者は、東京でピークアウトの兆しが出ていることに気付くことなく事態がひたすら悪化し続けていると思ってしまうことだろう。

比較というのは同じ基準でやらないと意味がない。「過去最多です」をやりたいから急に取り上げるカテゴリーを変えるなんて行儀悪い。せめて東京の重症者増加が止まったことをあわせて伝えるべきである。

「警戒してもらわないと人流抑制できない」

それはテレビがコントロールすることではない。市民の動きを制御するために情報の伝え方を歪めるのは成熟した民主主義国家にとって正しいことだろうか?

テレビ新聞が遠ざけるゴール

なぜテレビ新聞はワクチン二回接種しても効かないと誤認させるような報道の仕方をしたのだろう。

ワクチン3回目根拠なしのミスリード - コロナとマスコミ

ワクチン接種後の死亡事例について騒がない点は評価すべきなのかもしれないが、最近の報道を見ていると「ワクチンではコロナは抑えられない」という方向性を持った情報の出し方が多くなってきたのが気になる。

 

大谷が40号と8勝を達成した試合の球場はマスクをしない観客で一杯だった。
イングランドプレミアリーグも連日満員で大騒ぎだ。
海外のニュースサイトからcovid-19の情報は減ってきた。

 

マスコミに従っていると、ゴールはどんどん遠ざかっていく。
ワクチンを確保したら「試験が不十分で不安だ」と言い、
接種体制が欧米に遅れると「日本は遅れを取った」と非難し
接種率が目標に近づいてくると「ワクチンでは抑えられない!」と叫び出す。

 

文句を言うのが彼らの仕事なのだから、それについてどうこう言うより、私達受け手が彼らの仕事について理解を深めて、伝えられる情報を冷静に分析できるようになることが重要だ。

ジャーナリストの政治家転身、権力の監視はどこへ?

記者がまた政治家になるそうだ。

普段彼らは権力の監視を謳っているが、監視者が監視対象の組織に鞍替えすることに疑問を抱かないのだろうか。立憲民主党が政権を握る可能性もあるのだから、野党だからオーケーという話ではない。元NHK政治部記者の安住氏は民主党政権で入閣している。

そもそも自分達の先輩がたくさん所属していて、もしかしたら自分も将来お世話になるかもしれない業界を厳しい目で監視することなんてできるのだろうか? 

できるはずがない。なあなあになるに決まっている。総理記者会見のぬるい質疑応答を見るまでもない。

権力を監視するために特別な地位(記者クラブ)を持っているのに、その人達がこぞって権力を掴みに行ったら、一体誰が権力を監視すると言うのだ。

本当に権力の監視機関としての役割を果たし、市民の信頼を得たいと思っているのなら、政治家転身は絶対に許さないくらいの強い姿勢を打ち出さなければならない。

ワクチン3回目根拠なしのミスリード

最近、欧米の感染動向についてテレビから聞こえてこなくなった。
久しぶりにコロナ関連でアメリカの話が出てきたと思ったら、ワクチン3回目接種の件だった。「ワクチン2回打っても効かないのか!」と不安になる人が続出することだろう。

 

NHKのニュースは「ワクチンの3回目接種に科学的根拠がない」というような見出しで伝えていたが、WHOの科学者によるその発言は2回で十分効果があるから3回目は必要ないという文脈だった。

ニュースでは「3回目接種に科学的根拠がない」という部分ばかりが強調されて「2回で十分ですよ」の部分がおろそかになっていた。注意深く見ない人は「3回打っても効かないんだ」と誤認してしまうことだろう。公共放送でもこんな状態なのでコロナ報道は本当に恐ろしい。

新聞テレビは無条件に信頼できない存在になったことを皆に知ってほしい。皆が眉唾で聞くようになれば彼らの存在も許容できるが、信頼を寄せすぎている人が多い現状では危険な存在になる。

 

ワクチンは2回打てばデルタ株に対しても有効で、重症化もしなくなるというデータが出ている。「新しい変異種には効かないかもしれない」と心配になる人もいるかもしれないが、仮に今のワクチンが効かない変異種が出た場合でもそれに対するワクチンはそれほど時間をかけずに作れると製薬会社は当初から言っている。テレビが言うほど未来は暗くない。

検査基準の違う民間検査結果と合算しての比較はまずいのでは

この朝日新聞の記事はすばらしいと思う。
https://news.yahoo.co.jp/articles/cbc7ffdf4069a76bb0026c6fd388296efc6f65eb

陽性率が上がっている理由を「民間の検査数が増えた結果」と正しく言及している。しかも非常に重要な「陽性者数はカウントされる一方検査数はカウントされていない」ことも書かれている。

こんなおかしなデータの取り方で数値を公表していたことが驚きだ。陽性率は現在参照する価値のないデータになってしまっている。

 

そしてもう一つ重要な記述がある。
最近は『行政検査に匹敵する規模』で民間検査が行われているそうだ。行政検査に匹敵する数の民間検査が行われていて、その結果を単純に合算して公表しているとしたら問題だ。途中から検査基準の違うデータを混ぜてしまったら過去との比較ができなくなるからだ。


症状のある人や濃厚接触者に限定して検査してきた行政検査は当初からそれなりに一貫した基準で行われてきたから、このデータから過去と現在を比較して「最大の感染規模になっています」と言うことはできる。

だが、行政検査の結果に「途中から」検査基準の違う民間検査の結果を足してしまったらもう過去との単純な比較はできなくなる

症状がなくても受けられる民間検査では今まで拾い上げて来なかった無症状陽性者を大量に検出する可能性があるからだ。つまり今現在カウントされている感染者と、過去にカウントされていた感染者は同じ「感染者」という括りでもその内実が大きく異なっているかもしれないということだ。

 

テレビではアナウンサーが「今日の感染者数は○○人です。これまでで最大の感染者数です。」と連日やっている。間違ってはいないのだが、これは不誠実だと思う。本当は比較してはいけない数字を出して比較している。「集計された感染者数が先月の二倍になった」という事実は「感染の実際の規模が先月の二倍になった」ことを示していない。増えている民間検査でこれまで拾ってこなかった違うタイプの「感染者」を検出し、合算している可能性にも言及すべきと思う。

 

余談だがこの記事のコメント欄はひどい。
記事を読めていない人が思い込みで間違ったことを書き込みそれにたくさんの賛同が集まる。正す人もいるしバッド評価も入るが、いずれも少数だから間違った書き込みが上位に表示されてしまう。まぁ別に世間一般の話ではなく、ここに住み着いた人達の閉じた世界の話だからどうでもいいのだが真に受ける人が出てしまったら嫌だ。

「政府がヘマをしなければ新型コロナは抑えられる」のか?

感染者が増えると政府が批判される。これはどうかと思う。なぜならこれまでどこの国も感染者の抑制に成功していないからだ。コロナの感染動向は政治で制御できる範囲にないように見える。少なくとも自由主義国では。

新型コロナの感染力は非常に強く、そして現代自由主義社会では人の行動は完全に制御できない。

 

私達は政府に無理な仕事を要求している。政府はそれに応えようとして暴走する(例、銀行から飲食店に圧力を掛けさせよう)。良くない傾向だ。

私達は国に要求できる現実的な範囲を冷静に見極めなければならない。批判はその上で行うべきだ。
「政府がヘマをしなければ新型コロナは抑えられる」
この前提が正しいかどうかをまず考えなければならない。自由主義のどの先進国も新型コロナを抑えられなかったのになぜ日本だけが抑えられると思うのか。

 

むしろ数字だけ見ればこれまで日本は他国よりずっとましな感染状況だった。ブルームバーグの記事でも国別コロナ対応ランキングで上位に位置づけられていた。そのとき私達は「日本政府はよくやった!すばらしい!」なんて言っただろうか?

今政府批判している人達は「日本が相対的に軽度な被害で済んでいたのは日本政府が優秀だったから」という説明に納得できるだろうか?
できないのだったら感染拡大の原因をすべて政府に押し付けてはいけない。

「抑え込みに失敗したら政府のせい、成功したら私達の努力のおかげ。」

これは大人の世界では通用しない。


批判するならもっと現実的で論理的な批判をしてほしい。医療崩壊が叫ばれ続けた中、どうしていまだに十分なコロナ病床が確保できないのか、とか。医療制度に問題があるのならそれを是正するために法改正の議論をすべきだったのではないか、とか。変異種の脅威は警告されていたのに、なぜ素通りだったのか、なぜ水際対策を強化しなかったのか、とか。

オリンピック前から変異種は入ってきていたし感染拡大も始まっていたのに、オリンピックばかりを批判し続ける盲目的な姿勢をジャーナリストのような立派な肩書を持った人が取らないでほしい。世論を先導する力があるのに愚かな真似をしないでほしい。反国家権力の姿勢を貫くのは良いが、せめてもう少し理知的にやってほしい。

私達は私達のオピニオンリーダーがその役割を十分に果たせない可能性があることをもっと知るべきである。